司書のオススメ紹介図書

2011年度

105号 2012/3/16 (江戸東京博物館ニューズレター 124号)

『洒落のデザイン:山東京伝画「手拭合」』
(谷峯蔵,花咲一男解説、岩崎美術社1986)
『Tenugui 江戸手拭』(ピエ・ブックス2007)

唐突ですが、ハンカチよりも“てぬぐい”派であります。小さく畳めて、よく水を吸い、すぐに乾く。首に巻いたり、頭にかぶったり用途も広く、ちょっとした風呂敷包みにもなれば、緊急時には包帯代わりにもなる頼もしさ。何よりも、てぬぐいならではのデザインの面白さが魅力です。
山東京伝「手拭合(たなぐいあわせ)」は、“天明4年(1784)にてぬぐいの図案を一同に集めて展覧した催しを1冊の本に再現した”という趣旨で刊行された版本で『洒落のデザイン:山東京傳画「手拭合」』(岩崎美術社1986)でご覧いただけます。79種の図案の中でもとりわけ目を引くのは、幕をかきわけ顔をのぞかせる獅子っ鼻の男のてぬぐい。後に山東京伝の黄表紙「江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)」の主人公となるドラ息子・艶次郎で、一度目が合ったら最後忘れられません。背表紙にも描かれているので、ぜひ図書室の書棚に、ニヤリ顔のドラ息子を探してみてください。
このほか、てぬぐいデザインと江戸のユーモアを味わえる一冊に『Tenugui 江戸手拭』(ピエ・ブックス2007)も併せてオススメいたします。

104号 2012/2/17 (江戸東京博物館ニューズレター 123号)

『半七捕物帳』の世界

最近は少なくなりましたが、かつてはほとんどのテレビ局で時代劇を放送していました。特に多いのが捕り物で、その元祖とも言えるのが岡本綺堂作の『半七捕物帳』です。
テレビドラマの「半七」は江戸時代の岡っ引きですが、原作を読むと、彼はすでに老人となって、悠々自適の生活を送っています。時代は江戸から明治へと移っているのです。そこへ若い新聞記者が訪ね、過去の捕り物ばなしを聞き書きする趣向となっています。
明治5年生まれの岡本綺堂にとって、江戸時代は身近な時代だったはずで、それは江戸情緒を色濃く映した文章からも窺えます。『半七』は推理小説としてだけでなく、現代の私たちから見ると、二重の時代小説となっている点も興味深いところです。

『半七捕物帳』全6巻 岡本綺堂著 筑摩書房  9136/600/1~6 
『半七の見た江戸』岡本綺堂著 今井金吾編 河出書房新社 平成11年 
9136/661/99 
『綺堂は語る、半七が走る 異界都市江戸東京』横山泰子著 教育出版 
平成14年 2136/502/22 
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/window open)でも閲覧できます。

103号 2012/1/20 (江戸東京博物館ニューズレター 122号)

『日本史に出てくる官職と位階のことがわかる本』

帯にこう書いてあります。「織田信長はなぜ“上総介”を名乗ったか? 
水戸光圀はどうして“黄門”と呼ばれたか?」そうですね。よく聞かれます。
「大岡“越前守”は福井と関係があるのか?」とか。『日本史に出てくる官職と位階のことがわかる本』(新人物往来社・2009年)は、古代編・中世編・近世編に分けて、読み物の中で官職・位階のことに関してふれています。
幕末の大名で言えば、例えば島津斉彬(薩摩藩)は“薩摩守”ですが、松平容保(会津藩)は“肥後守”となっています。調べたことのある方ならご存知でしょうが、この肥後守は受領名であり、領地とは関係ありません。
大国・上国・中国・下国という4ランクの中で、肥後守は大国に位置づけられ、官位で言って従五位上相当でないとそれを名乗れなかったといいます。
薩摩守は中国(従正六位下相当)、ちなみに越前守は大国のランクに位置づけられています。
江戸時代に敬遠された受領名は“尾張守”(位置づけは上国、従五位下相当)だそうです。これは何故か。詳しいエピソードについては本書で。

102号 2011/12/16 (江戸東京博物館ニューズレター 121号)

『同潤会 大塚女子アパートメントハウスが語る』

地下鉄丸ノ内線の茗荷谷駅から程ない場所に、大塚女子アパートメントハウスはありました。この本のタイトルどおり、こちらに何かを語り掛けてくるような、そんな雰囲気のある建物でした。関東大震災復興事業として建てられた同潤会アパートメントのひとつですが、2003年に解体されました。
1930年に竣工されたにも関わらず、モダンなたたずまいで、音楽室やサンルーム、屋上庭園などなど、共用施設が充実していた大塚女子アパートメントハウス。
『同潤会 大塚女子アパートメントハウスが語る』(女性とすまい研究会 編 ドメス出版)は、
ここで暮らしていた人々への聞き書きや、女性の社会進出の時代背景、建物の特色、保存再生活動から解体への経緯など、このひとつの建物が語る数多くのものが伝えられている一冊です。

101号 2011/11/18 (江戸東京博物館ニューズレター 120号)

ぬっとあったものとぬっとあるもの

街中を歩きながらふと見上げると、あるいは電車の車窓からふいに。
木々の繁るカーブを曲がった瞬間に……意表をつくスケールであらわれる大きなモノ。
『ぬっとあったものとぬっとあるもの : 近代ニッポンの遺跡』(ポーラ文化研究所 1998)は、現在ぬっとあるものと、かつてぬっとあったものを取り上げます。
大船観音、東京タワー、太陽の塔、回転展望台、大阪城、ゴジラ、凌雲閣…。
風景の中で突出した存在感を放つこれらの建造物に、「ぬっ」という形容はなんてぴったりくるのでしょう。
今回オススメするために再読しましたら、大船観音や牛久大仏をはじめて目にした時のぎょっとした感覚がよみがえってきました。
写真を眺めるだけでも楽しい一冊だと思います。

100号 2011/10/14 (江戸東京博物館ニューズレター 119号)

携帯の形態 旅するかたち

東西を問わず昔から、人は旅の空にあっても快適に過ごすため、様々な持ち物の工夫をしてきました。そんな工夫の数々が紹介されているのが『携帯の形態 旅するかたち』 (INAX 1993年 3843/132/93)です。
江戸時代、旅人達が危険を回避するために現金を忍ばせた「銭刀」や、「折畳み式ろうそく立て」など、必要な物をできるだけ効率よくまとめるだけでなく、できるだけ美しく、という姿勢には人間の美学や知恵が集約されています。
そして今や、電話、テレビ、カメラその他諸々が、掌に載るほど小さく薄いカード状の機械ひとつで携帯できるようになりました。人の欲望は科学技術の進歩とともに肥大していくようです。今後、いったいどこまで欲深く、そして形態はコンパクトになっていくのでしょう。そんなことを考えながら眺めても楽しい本です。(※カッコ内数字は請求記号)

99号 2011/9/16 (江戸東京博物館ニューズレター 118号)

『日本史・世界史同時代比較年表』

日本史と世界史。高校のときには別々の科目だったし。とくに江戸時代はいわゆる鎖国体制ということもあってか、事件が起きてそのころの世界の出来事と比べてみる並べてみるなどということは(つながりの上でも)あまりありませんでした。
調べてみると、1600年、関ヶ原の戦いで家康勝利。1603年、江戸開府。
このころ……シェークスピアが『ハムレット』を書いていたんですね。
『日本史・世界史同時代比較年表』(朝日新聞社・2005年・請求記号2090/45/005)は書名のとおり日本史と世界史、同年・同時代の出来事を比較した年表本で、独自の切口で見出しをつけた読みものとしての部分も持ち合わせています。
1791年、山東京伝が出版取締令に触れて手鎖の刑に処せられたとき、モーツァルト死去。そうか、ふたりは同時代人だったんだ、なんてことを気づかせてくれます。
類書に『日本史と世界史 並列年表』(PHP研究所・2007年・請求記号2100/772/007)、『日本史世界史対比年表』(PHP研究所・2007年・請求記号2101/300/007)など。近年にも何冊か出ていますね。

98号 2011/8/19 (江戸東京博物館ニューズレター 117号)

『文学散歩・東京』

立秋も過ぎ、散歩日和の日も徐々に増えていくだろうという期待を込めて、東京都高等学校国語教育研究会編集の本、『文学散歩・東京』(冬至書房 2004)をご紹介いたします。
都内を両国コース、馬込文士村コース、多摩歌碑巡りコースなど17のコースに分け、さらにゆかりの作家についてのエピソードを盛り込んだ、詳しくもわかりやすい解説付きです。近辺情報や地図もあり、文学館・記念館案内、作家が眠る霊園案内、作家索引も用意され、丁寧につくられている1冊です。
ただ、7年前の出版となっていますので、変化の激しい東京のこと、改訂版の出版が待たれます。

97号 2011/7/15 (江戸東京博物館ニューズレター 116号)

"目で見る都営交通"『東京都交通局60年史』より

東京都交通局の前身である東京市電氣局が創設されたのが明治44年。
路面電車の市電(都電)にはじまり、市バス(都バス)、地下鉄の開業と、東京の発展とともに歩んできた100年の歴史があります。

昭和47年に発行された『東京都交通局60年史』(東京都交通局 1973)には“目で見る都営交通60年”と題したグラビアページが盛り込まれており「東京の名物」と歌われた大正時代の満員電車、スマートになってゆく車両、女性車掌の登場、震災・戦災の復興、地下鉄の建設…といったトピックスをなつかしい都市の風景や人々の表情とともにご覧いただけます。
編集者が心がけたと、あとがきに記す通り「目で見て楽しい読みもの」となっています。
図書室では特別展「東京の交通100年博」会期中、関連図書コーナーをご用意しています。展覧会へお越しの際は、どうぞお立ち寄りください。

96号 2011/6/17 (江戸東京博物館ニューズレター 115号)

津波をみた男 100年後へのメッセージ

今から100年以上昔、明治29(1896)年6月15日、三陸沖で発生した地震により大津波が襲い、青森県・岩手県・宮城県では死者2万2千人にも及ぶ大災害となりました。
岩手県の起業家、山奈宗真はその約一か月半後、かねてから志願していた岩手県の津波調査員を委嘱され、現在の陸前高田市から九戸郡洋野町辺りまでの岩手県沿岸を単身徒歩で調査します。40日間という短期間ながら、調査は死亡者数、津波の浸水域、侵入経路にまでに及びました。
山奈は調査だけでなく、防災、復興のための提言も残しました。しかし、その記録の多くは活用されなかったと言います。
『津波をみた男 100年後へのメッセージ』(大船渡市立博物館 1997  M22/OF-1/2)は平成9年に大船渡市立博物館が行った、山奈宗真と津波災害調査に関する展覧会図録です。海岸から離れた遠野に住んでいた山奈が、なぜこれほどの情熱をもって調査記録を残したのでしょう。図録は、「『津波をみた男』からの『100年後へのメッセージ』を受けとめ、百年前の悲劇を繰り返さないよう、活用していかなければなりません」との言葉で結んでいます。

※9月4日(日)まで「地震・津波・災害」関連図書コーナーを設けています。

95号 2011/5/20 (江戸東京博物館ニューズレター 114号)

『結び方全書  暮らしに使える170の結び』

フィット感がよくなる靴ひもの結び方とか、2本のビンを固定させる結び方とか、なるほど、試してみようかなと思ってしまいます……『結び方全書』(池田書店・2009年)。紐・ロープだけではなく、スカーフ・ネクタイから包帯・三角巾まで、いろいろなもののいろいろな結び方が図解されています。
結びに関する本は数あれど、本書は三色刷で順序立てて図が描かれていて、とても見やすいと思います。
日本の伝統的な水引などの飾り結びもあります。ふろしきによるワインボトル、すいかの包み(結び)方も収録されています。そう、これ、ふろしきの使い方の本でも見たことがあって、気になっていました。これこそ、今度こそ、試してみよう。