
83号 2010/3/19 (江戸東京博物館ニューズレター 101号)
武鑑とは? 『江戸の武家名鑑』(吉川弘文館・2008年)冒頭には“武鑑は「プロ野球選手名鑑」に似ていると思う(略)背番号・顔写真・守備位置・生年月日・出身地・出身校・趣味…(略)とてもたくさんの情報が詰め込まれている。
一方、武鑑は武家の名鑑である(略)陣幕や着物や駕籠などにつけられた紋所や、江戸市中を行き交うときの行列道具などが、わかりやすく絵入りで描かれている”とあります。さらに、武鑑からこの人とこの人が同時代人であったことがわかる、武鑑は江戸の香りがするといったことが書かれています。
図書室ではこのたび武鑑の集成本を多数開架に出しました。
まずはこの本をもとに武鑑にふれてみますか!
82号 2010/2/19 (江戸東京博物館ニューズレター 100号)
牛や馬、犬、猫、鳥、金魚のような身近な動物から、象、駱駝のような海外からやって来た珍獣、龍や河童、人魚にいたるまで、江戸時代に描かれた様々な動物画と解説が、『動物奇想天外 江戸の動物百態』(内山淳一 著,青幻舎,大江戸カルチャーブックス)という本に載っています。
この本は、2006年に仙台市博物館で開催された展覧会、「大江戸動物図“館”-子・丑・寅…十二支から人魚・河童まで-」の図録を改訂して出版されたものです。
八相涅槃図に描かれた仰向けになって子どものように泣きじゃくる白象、当時の藩士の記録等に書かれたイタチや白鼠をペットとしている様子、西洋動物への並々ならぬ好奇心、当時の人々の自由奔放な発想と表現には目も心も奪われ、想像以上に多種の動物を目にしていたことには驚きを覚えます。
81号 2010/1/15 (江戸東京博物館ニューズレター 99号)
「八百屋お七の生没年を知りたいのですが」
「弥次さん喜多さんの年齢は?」
こんな質問を受けた時、まず引いてみたいのが『日本架空伝承人名事典』(大隅和雄[ほか]編 八坂書房'82)です。
日本の神話、伝説、昔話、古典文学、歌舞伎などの登場人物を網羅的にとりあげた風変わりなこの事典。
登場するのは大黒天、河童、かぐや姫、藁しべ長者といった想像上の人物(?)に限りません。
赤穂浪士、鼠小僧、徳川家康など実在の人物も数多く収録されています。
「事実」の世界とは別に、誇張・改変された「架空・伝承」の世界でのイメージが定着している人物の事典でもあるのです。
ランダムに開いたページを読み進むのも、また楽しい一冊です。
80号 2009/12/18 (江戸東京博物館ニューズレター 98号)
江戸時代の出版物。読む本に目を向けてみると、戯作と称されるものだけでみても、黄表紙あり滑稽本あり人情本あり洒落本あり……いろいろな種類があります。
これら名称は聞いたことがあると思います。今日読んでみたいと思えば活字に翻刻された洋装本のかたちになっているものが出ていたりしますが……
「もとの和装本だと大きさや色などといった形状に関するところはどうなっているのだろう?」、こう思ったことはないでしょうか。
『江戸の出版事情』(当館請求記号0231/45/7)は、江戸時代の本の表紙や本文そして挿絵(版画)などを多数図版としておさめています。全てカラーで、多色刷の挿絵の色はもとより紙(和紙)の色の具合までわかり、江戸時代に出版された本の持つ雰囲気が伝わってきます。「読む本を観る本」と言えそうです。
79号 2009/11/20 (江戸東京博物館ニューズレター 97号)
江戸後期に刊行され、江戸名所本の集大成とも言える『江戸名所図会』。
絵と文章によるその体裁は、現代で言うタウンガイドとも言えるでしょう。
また写実的で明朗な挿絵を眺めるだけでも十分楽しめます。
たとえば「駿河町三井呉服店」前の往来を描いた絵を見てみましょう。
武士や商人、天秤棒を下げた物売りが行き交い、犬猫まで活き活きと描かれています。そしてはるか遠方には富士山の姿が。これは歌川広重も『江戸名所百景』で描いている構図ですが、『江戸名所図会』の方が見開きで横の尺が長い分、江戸の町が広々と感じられます。ぜひ原寸復刻でご覧ください。
『江戸名所図会 上中下 原寸復刻』 斎藤幸雄他著 石川英輔,田中優子監修
評論社 平成8年12月20日 2913/823/001~3
78号 2010/10/17 (江戸東京博物館ニューズレター 96号)
現在、開催中の特別展「よみがえる浮世絵-うるわしき大正新版画展」は、もうご覧になられましたでしょうか?
この繊細かつモダンな新版画に着目し、蒐集し続けたロバート・ムラーのコレクションの一部が里帰りし、日本初公開されています。
図書室でも、特別展の関連図書コーナーを設けていますが、その中の一冊、『秘蔵浮世絵大観 ムラー・コレクション』(楢崎宗重 編著,講談社)は、ムラーを魅了した新版画など、222点が収められています。
関東大震災前の東京の様子、地方の風景、役者絵、美人画・・・
小林清親、伊東深水、川瀬巴水、吉田博などなど、多くの作家のいろいろな作品が楽しめます。
展覧会ご高覧後、是非図書室で、当館学芸員力作の展覧会図録と共に、お手にとってご覧下さい。
77号 2010/9/18 (江戸東京博物館ニューズレター 95号)
「旅の荷物はなるべく少なく。品数が多ければ忘れ物も出てきて却って煩わしいものである」とは、文化7年(1810)に発行された八隅蘆菴(やすみろあん)の『旅行用心集』“道中用心六十一ヶ条”の一説。
コンパクトな荷物で歩く姿が颯爽と旅慣れて見えるのは、江戸時代も今も変わりません。
『旅行用心集』は、道中案内のほか、便利な持ち物に疲労回復のツボ、諸国温泉案内・・・と、旅に役立つ情報満載のガイドブックです。
現代に通じる教訓も多く、思わず大きく頷いてしまったり。はたまた狐・狸に騙されたときの対処法など迷信的な心得もあれば、災難よけのお守り「白澤(はくたく)の図」までついています。
見知らぬ土地への旅は、浮き立つ気持ちとともに不安もあったことでしょう。
ベストセラーとなったこの冊子。旅人たちの懐中で、心強いお守りのような存在であったのかもしれません。
76号 2010/8/21 (江戸東京博物館ニューズレター 94号)
「猫」というとどんなイメージを持ちますか?気まぐれで何を考えているか分からない、などと言われたり、化け猫として怪談に登場する一方、「招き猫」として尊ばれる、私たちにとっては非常に身近な動物です。
江戸時代からあったと言う招き猫。なぜ猫なのか?犬じゃいかんのか?と、犬派の方々はご不満かもしれません。なぜなのかと尋ねられて答えに窮するのは、置物としての招き猫の成立には諸説あるからです。詳しくは『来る福招き猫手帖』(荒川千尋,板東寛司/著 情報センター出版局 平成8年)をご覧ください。
成立はともかく、猫が左右どちらの手を挙げているか、白猫か黒猫か、はたまた金猫かでもまた御利益が違うそうです。もし贈り物にするならご注意を。(関連図書)『招猫画報 吉祥招福』
(荒俣宏監修 日本招猫倶楽部編 エー・ジー出版 平成9年)
75号 2009/7/17 (江戸東京博物館ニューズレター 93号)
江戸時代、江戸に象(ゾウ)がやって来ていたのをご存知ですか?
この段階で「えっ?」という声が聞こえて来そうですが……
さておきこの象の体重、江戸時代の人はどうやったら量ることができたと思います? 天秤? 梃子?
……いやいや、正解は「船に乗せる」でした。船に乗せれば、船体は沈みます。沈んだところ=水面と同じ高さのところ(船体部分)に印を付け、象を船から降ろします。次に米俵を船に積んで行きます。印を付けたところまで船が沈んだら、積んだ米俵の数を数えます。米俵1俵の重さが決まっていればあとは掛け算で、というわけです。
これは書名もズバリ『子どもたちは象をどう量ったのか?』(柏書房・2008年)の中でとりあげられていて、江戸時代の『改算記』という本に記されているそうです。
『子どもたちは象をどう量ったのか?』は寺子屋での勉強法に着目し、目次をみると一時間目「国語」・二時間目「算数」・三時間目「理科」・四時間目「社会」・五時間目「総合学習」という内容になっていて、他にも「自分の体積を測ろう」など、子どもでもわかる江戸時代の発想を紹介しています。夏休み、親子で読んでみては?
74号 2009/6/19 (江戸東京博物館ニューズレター 92号)
ある時、「なんでも揃う」と言われている大型日用品店に行って、蠅帳を買い求めました。しかし。「それはどういうものですか?」若い店員さんに聞き返され、「テントのような傘のような形ですが網で出来ていて、食べ物に虫がたからないように、食卓の上に開いて置く・・・」と説明しても店員さんは首を捻るばかり。やがて先輩らしき店員さんがやって来て、合点がいったように店の奥に消えたので、ホッとして待ちました。
当たり前と思っていた日用品が、いつの間にか姿を消しているのには驚かされますが、こうした何気ない日用品こそが、その時代を映す貴重な鏡でもあるのです。
近年では昭和の日用品について『昭和すぐれもの図鑑』(小泉和子著 田村祥男写真 河出書房新社 平成19年)の様にまとめられた本が多数刊行されています。再び生活に取り戻して良い日用品も、その中にはあるのかもしれません。
さて、冒頭でお話しした蠅帳ですが、結局その店では手に入れる事ができませんでした。なぜなら店の奥に消えた店員さんが持ってきてくれた物は、網でできてはいましたが、魚の干物を作るつり下げ網だったからです・・・。
73号 2009/5/15 (江戸東京博物館ニューズレター 91号)
富士山を背景に、美しくダイナミックに表現された鯉のぼり。
広重の「名所江戸百景」のひとつ、水道橋駿河台の風景に描かれたものです。
この浮世絵にとても魅力を感じた男の子が、江戸時代の鯉のぼりについて図書室に調べに来ました。
確かに雄大な鯉のぼりの姿には目を奪われます。
広重の「名所江戸百景」には、こうした魅力的な構図の作品が数多くあります。
『秘蔵 岩崎コレクション 広重 名所江戸百景』(浅野秀剛 監修,小学館)は、現存では最高のものといわれている岩崎コレクションを底本とし、「名所江戸百景」120図の他、、「近江八景」「二代広重肉筆画」「広重死絵」を深みがあり、みずみずしくもある色合いで掲載しています。
是非、図書室でお手に取ってご堪能ください!
72号 2009/4/17 (江戸東京博物館ニューズレター 90号)
「にっこく」と聞いて、何を思い浮かべますか?
なにやら、おいしそう?
いえいえ。豚の角煮のようなものではありません。
私たちが愛着と尊敬の念をこめて「にっこく」と呼ぶのは、国内最大規模の国語辞典、小学館発行『日本国語大辞典』です。
2000年以降に増補改訂された第2版(全13巻+別巻)には、収録項目50万語に加えて、古典籍から近代文学までさまざまな用例がそのことばが用いられたもっとも古い(と思われる)出典として、それから、時代による語彙の変遷がわかるように効果的に、年代も含めて100万例も掲載されているのです。図版も随所に置かれ、百科事典としても使えます。
ご自宅に置くには、いささかボリュームのある「にっこく」ですが、とにかく頼もしい事典です。どうぞ当室で、もしくはお近くの図書館で、ご活用ください。